慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

菊池一雄《青年》の設置

菊池一雄(1909-85)の《青年》は1949年に竣工した谷口吉郎設計による旧4号館の前庭に設置されていた。その後、校舎の改築に伴い、オリジナルの大谷石の台座のまま、研究室棟脇の煉瓦壁の前に移設されたたが、台座部分の痛みが激しく、危険な状態であったため、2001年12月に撤去され保存修復処置が施された。(本年報9号47-49頁)。作品詳細情報についても同書を参照のこと。2008年春に西校舎と研究棟の間の広場を整備するに際し、新たな台座を施して再設置した。なお、その際に台座の寸法については以前の台座を踏襲した。

日付

2014年3月31日

場所

Tags: Sculpture



保存修復作業記録

2008年5月 ブロンズスタジオ・黒川弘毅

作業期間:2008(平成20)年4月13日 作業者 黒川弘毅(ブロンズスタジオ)大野春男、吉村栄夫(石歩)

作品

  • 作者 =菊池一雄
  • 作品名 =青年(台座側面銅板には「立像青年」の記載)
  • 制作年 =1948年
  • 素材・技法 =ブロンズ
  • 寸法 =173x40x35cm
  • 記名 =側面に銅板の銘文
  • 坂本直樹君寄贈

処置前の状態

本作品は長崎の出島を題材としており、省略はあるが、人物の服装や髪型、船の装飾などがわかりやすく描かれている。顔料の粒子の粗さも表現として用いている。本紙は裏打ちが施され、和紙に張り込まれている。小さな破れや欠損(虫喰い)はあるが、目立った損傷はない。中央で継がれ、両端は図柄の途中で裁たれている。

全体に汚れの付着が著しく褐色を帯びた印象である。特に下辺部には冠水によるしみ痕の末端に広がった汚れが濃い褐色で目立っている。絵具層の固着は良い。縦方向の亀裂が全体に見られることから、巻かれて保管されていたものを和骨に張り、額装したと考えられる。その際に両端を裁った可能性がある。和骨には明治を記した新聞紙、江戸〜明治期にかけて使用された帳簿等が使用されている。

修復処置事項及び内容

  1. 写真撮影(修復前):修復前の状態をデジタルカメラで撮影した。
  2. 状態調査:修復前の状態を調査し、記録した。
  3. 乾式洗浄:柔らかな刷毛を用いて全体の塵埃を軽く払った後、プラスチック消しゴムで絵具層の表層を擦らぬように汚れを除去した。
  4. 固着強化:Jun- Funoriとチョウザメ膠を混合した接着剤を絵具層の剥落部・浮き上がり・擦り傷に細筆で注し入れ、描画部分には和膠(3%)を浸透させ固着強化した。
  5. 解体:竹箆を用いて支持体を和骨から外した。
  6. 裏付付着物除去:裏面に付着した浮け紙(和紙)を除去した。
  7. 水洗:サクションテーブル上に吸取紙・ポリエステル紙・作品を重ねて置き、裏面側から吸引しながら作品に精製水を噴霧して汚れを水洗した。絵具と汚れの様子を見て三度に分けて水洗を行った。作品は事前に加湿を行い、急激な水分の吸収による支持体や絵具層への負担を防いだ。
  8. 破損部接着:破損部分に両端の繊維を食い裂いた帯状の和紙を裏面側からあてがい、生麩糊を用いて接着した。
  9. 補紙:支持体欠損部と同様の形状に切り取った和紙を欠損部に填め込み、周囲の繊維に生麩糊を塗布し、裏面側から和紙をあてがって接着した。
  10. 張り手接着:片側を食い裂いた和紙を支持体の四辺に生麩糊で接着した。
  11. 張り込み:張り手を接着した作品をパネルに張り込んだ。全体に僅かな湿りを与え、周縁に20㎜幅程度で接着剤を塗布し、パネルに袋張りした。側面部に保護として和紙を生麩糊で張り込んだ。
  12. 補彩:補紙を行った部分、虫糞、除去しきれなかった汚れなど、鑑賞を妨げる要因となる部分に対し、パステルを用いて補彩を行った。
  13. 額装:新調した額に作品を収めた。
  14. 写真撮影(修復後):修復後の作品の状態をデジタルカメラで撮影した。

修復後の所見

 全体に汚れが吸着して褐色味が強く、冠水により広がった汚れも目立っていた。幸いにも絵具層が安定しており、水洗を行うことが可能であったため、色調に明るさを取り戻せた。同時に破れや欠損部に処置を施すことで損傷が目立たなくなり、鑑賞に集中することができる画面となった。

日付

2014年3月31日