慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

朝倉文夫《平和来》三田キャンパス野外彫刻洗浄保存処置

 三田キャンパスに設置されている3点の野外彫刻に関しては、2001年度に朝倉文夫《平和来》、柴田佳石《福澤諭吉胸像》について、2003年度、2005年度、2007年度にはこの2点に、朝倉文夫《小山内薫胸像》を加えた3点について、洗浄保存処置を実施している。2009年度には、2008年度に野外に設置された菊池一雄《青年》を加えた全4点について洗浄保存処置を行った。2013年度には、イサム・ノグチ《無》を加えた5点の洗浄保存処置を行った。今年度は、再び作品表面に汚損が認められたため、上記5点について、アート・センターを通じて専門家による洗浄保存処置を行った。本件はそのうちの1点である。


保存修復作業記録

2016年5月10日 ブロンズスタジオ/黒川弘毅/作業者:黒川弘毅、篠崎未来、遠藤啓祐

作品

作者=朝倉文夫
作品名=平和来
材質=ブロンズ
制作年=1952年
寸法=185×58×57 cm


【作業前の状態・表面の状態】

・表面の状態:2013年度の作業時と比較して、顕著な変化は認められないが、ワックス塗膜下で淡青色のさびが僅かに進行していると推定される。撥水性は良好に維持されていた。
・鳥の排泄物:付着が見られた。
・人為的キズ・落書きの個所:なし。
・ピンホール(鬆)・穴・亀裂:顕著なものは認められない。
・内部からの噴出・析出物:地山クラックから白色の析出物は見られない。
・破損・欠失個所:なし。
・変形個所:なし。
・その他の異常:認められない。
・固定状態:良好。


【保存処置事項及び内容】

1.写真撮影:修復前の状態をデジタルカメラで撮影記録を行った。
2.調査:修復前の状態を調査し、修復方針を検討した。
3.浮き上がり接着:破損部・剥落部周縁の絵具層の浮き上がり箇所に膠水(10%)を差し入れ、緩衝材としてシリコンシートをあてがい、電気鏝を使用し、加温・加圧して接着を行った。
4.耳補強:帯状に裁った麻布の長辺部の一片の織りをほぐし、薄く削いだ部分を画布の側面裏にあてがい、BEVA371フィルムシートを接着剤として使用して接着し、耳補強とした。
5.仮張り変形修正:可動式木枠に作品を仮張りし、画布の変形や張りの状態を見ながら徐々に張りを与え、変形修正を行った。変形が残る箇所は、加湿・加温・加圧して修正した。
6.裏面の木枠清掃・殺菌:裏面に付着・堆積していた埃等を電気クリーナーで吸引した後、エタノール水を含ませたウエスで汚れを除去した。
7.画面洗浄:希アンモニア水溶液を綿棒に含ませ、画面全体の汚れを除去した。
8.充填整形:絵具層が剥落し欠損している箇所に、ボローニャ石膏と膠水を練り合わせた充填剤を詰め、周囲のマチエールと合うように塑形した。
9.防黴・殺菌ワニス塗布:画面に、チアベンタゾール(TBZ)を溶解したダンマルワニスを塗布した。
10.補彩:充填箇所・擦傷等に修復用アクリル樹脂絵具を使用し、補彩を施した。
11.画面保護ワニス塗布:画面の保護と艶の調整にダンマルワニスを塗布した。
12.くさび新調:紛失したくさびを新調した。
13.額修復:額の欠損部を復元した。汚れを除去し、がたつきを修正した。
14.額装:裏面に、裏蓋(ポリカーボネート板)を設置した。
15.写真撮影:修復後の作品をデジタルカメラで撮影し画像記録を残した。


【作業の基本方針】 

保護剤を更新して撥水性を維持する。

【作業内容】 

1.洗浄作業 非イオン系洗剤を用いて洗浄した。
2.保護剤塗布作業蜜蝋を全体に塗布し、輪郭にメリハリが出るように光沢を調整した。 

【使用材料】 

蜜蝋、リグロイン

【作業結果】 

作業前と比較して、顕著な変化は認められない。

日付

2016年1月26日