慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

旧ノグチ・ルーム(萬來舎)の保存処置

 三田キャンパスで長らく「ノグチ・ルーム」と呼ばれてきた第二研究室談話室は、建築家谷口吉郎と彫刻家イサム・ノグチのコラボレーションによって創造された空間であり、1851年8月に竣工した。南館新築に伴う第二研究室解体という事態を受けて、庭へ広がる空間を伴った地上の談話室は、2004年南館3階ルーフ・テラスという全く異なった立地に、建築家隈研吾、景観設計家ミシェル・デヴィーニュの手を経て新しい形で移築された。2007年度に家具に加えて室内床面等を集中的に修復・保存処置を施した(『慶應義塾大学アート・センター年報』15号、65-69頁参照)。その後、室内環境の改善につとめ、週1回の定期的な清掃および空調稼働を行ってきた。しかし、以前から指摘されていた立地環境の変化によってもたらされた窓からの太陽光の影響により、2年を経て家具表面等の劣化が目視される状況に及んだ。その後も2007年度の修復を担当した宮崎安章氏(修復研究所21)に状態の調査を依頼し、対応処置およびアドバイスを得てきた。本年度は懸案であった専用の遮光処置を施すことができ、それにより劣化状況は格段に改善された。



①家具及び籐敷物面への専用カバー設置
 これまでも応急的に家具および籐敷物部分に布をかけてきたが、何分にもあり合わせの不織布やテーブルクロスで対応してきたため、きわめて不充分な状況であった。そのため2010年度の調査では修復後の劣化の進行が見られ、定期的な処置が必要との判断が下された。
 前年度に家具個別の採寸、カバー素材選定作業を行い、2011年4月ノグチ・ルーム内の家具に専用カバーを施した。カバーは腰掛け、テーブル等家具類だけでなく、籐敷物が施されている部分全体に施した。
 
②紫外線カットフィルムの設置
 室内の光環境の改善のためには、窓に紫外線カットフィルムの設置が効果的であることが、アドバイスされていた。以前はスクリーンの設置も検討されたが、2階の窓からの日光進入も大きいこと、スクリーンを設置するとなると、部屋への大きな造作となることから、検討したものの実現に至っていたなかった。その後、家具へのカバー設置で保存効果を上げることができたため、室内環境に影響の少ないフィルム設置を再度、検討する運びとなった。但し、フィルムにする場合、フィルムの設置により、窓の表情が変化し、印象が変わってしまうことは避けなければならない。そのため完全に透明なフィルムの設置が望まれるところであった。
 本年度、展示設置の専門家に依頼し、検討を重ねた結果ふさわしい材料および作業の方途を確保することができたため、フィルムの設置を行った。
 また、設置後の劣化を防ぐためにも、また作業の効率と安全性の面からも、フィルムは室内側に設置した。

③その他のメンテナンスおよび調査
・床面に関しては、1年に1度の油性床用ワックス塗布を通常メンテナンスの範囲で行った。
・特に日光の当たる位置にある《テーブル》《腰掛け(大)》について2010年度同様の定期的保存修復処置を行う予定であったが、修復研究所宮崎安章氏の調査により、専用家具カバーの設置によって、状況は劇的に改善されており、本年度の処置は必要ないという判断が下された。

写真は左から
写真1:家具専用カバーの設置

日付

2011年4月1日