慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

清川泰次《白の世界No.60》の修復

  本作品は、慶應義塾出身の画家であり、長年に渡り慶應義塾広報誌『塾』の表紙を描いた清川泰次(1919-2000)の作品で、矢上メディア・センターが所管している。同メディア・センター創設期より壁面に掛けられており、作品に汚損が認められたため、アート・センターを通じて専門家に依頼し、修復保存処置を施した。 
 作品裏面の書き込みによれば作品タイトルは「作品」(Painting No.60-73)および「作品」(Painting No.62-73)とも考えられるが、これらの作品が出品された個展が「白の世界」と題されており、画集もその表題を掲げている。画集には番号だけが付されており、「作品」と記述されていない。また、本作品は作者から寄贈を受けており、展示当初からキャプションも付されていたことから、タイトルはこれまでのまま「白の世界」を採用した。
〔文献〕清川泰次『清川泰次画集―白の世界―』美術出版社、1973 年/『慶應義塾史事典』慶應義塾、578 頁、654-655 



保存修復作業記録

2011 年 3 月 31 日 修復研究所 21・宮崎安章

作品

  • 作者=清川 泰次
  • 作品名=白の世界 No.60
  • 制作年= 1973 年
  • 材質・技法=アクリル、カンヴァス
  • 寸法= 194 × 97cm
  • 署名等=画面右下「Taiji 清川」裏面「Painting No.60-73/by/Taiji Kiyokawa/清川泰次/作品/ 1973 年/ 120M(193.9x97.0)/Acryl on Canvas作者寄贈

【処置前の状態】

・画面全体に埃が付着し汚れているが、木枠と中桟のある位置のみ帯状に埃の付着が少なく、周囲と比べて明るい色調に見える。
・下辺に手垢の痕跡があり、汚れている。
・裏面は埃等で汚れている。

【施行処置】

・表面の埃等の汚れは油分を含まない粉消しゴムを刷毛で撫でながら除去した。
・裏面の汚れは掃除機で除去した。
・手垢等の汚れは綿棒に純水を含ませオリジナルの絵具層を痛めない範囲で除去し、残ってしまった汚れはパステルを使用して目立たないように補彩した。

【東北地方太平洋沖地震の被害について】

・ 3 月 11 日(金)14:46 に起こった震度 5 強の揺れによって天井に取り付けられた撮影用スクリーンが落下し、下にあった補彩用パレットと筆洗油の入った瓶の上に落ち、キシレンとミネスピの入った筆洗油が飛散して画面左側に油性のしみが出来てしまった。
・取り外してあった額縁にスクリーンが落下し、左辺が折れ曲がってしまった。
・また、埃除去後画面の右側と中央部に水滴が飛散し、そこに埃が溜まってできたと思われる水性のしみが現れた。このしみは埃の下部にあったことから震災前に出来たものと考える。

【対応処置】

・油性のしみ除去:表面に付着した埃を除去した後にミネラルスピリットを吸い取り紙に含ませた後に脱脂綿で拭き取った。数回繰り返して行ったがオリジナルの絵具がアクリル樹脂絵具の為、それ以上行うと溶解してしまう可能性があり完全に除去せず、パステルで補彩した。
・折れ曲がった額縁は新調した。
・水滴の飛散によるしみは綿棒に純水を含ませて除去した

写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後

日付

2011年3 月31日