慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

中西夏之《男子総カタログ ’63》の修復

 「ハイレッド・センターの「シェルター計画」で撮影された男子背面の写真を、中西夏之が等身大ブループリント、ハイレッド・センターの結社員、中西夏之、赤瀬川原平、和泉達の3人の背面を複数枚つなげている」(「土方巽+中西夏之『背面』」展リーフレット)。このブループリントの長尺の作品は同型式のものが赤瀬川原平の千円札裁判の折に提示されたことが赤瀬川の著作に掲載されている記録写真から知られている。
 経年劣化により、破れなどがあり、展示に耐えうる状態でなかったため、慶應義塾大学アート・スペースで開催した「土方巽+中西夏之『背面』」展に出品するために、アート・センターを通じて専門家に依頼し、修復処置を施した。修復は展覧会以前に展示可能な形にするまでの処置を施し、その後、再度修復研究所21に戻し、最終的な処置と収納用の箱の作成などを行った。
〔文献〕『東京ミキサー計画―ハイレッド・センター直接行動の記録』Parco出版局、1984年



保存修復作業記録

2013年3月31日 修復研究所21・有村麻里

作品

作者=中西夏之
作品名=男子総カタログ ’63
制作年=1963年
材質・技法=ブループリント(サイアノタイプ感光紙)
寸法=約1200×782 cm (厚み 0.23mm)

【処置前の状態】

 本作品は青写真用感光紙(天地:約1730mm)を縦に数枚接いだ全長約12メートルに渡る作品である。ダンボール製の紙筒に巻かれており、片側に細かな皺や破れが集中していることから、ある期間、片側を下にして立てた状態で保管されていた可能性がある。
 上辺に約83cm程の垂直に走る破れがあり、処置が施されている。周囲に十字型の破れがあるが処置はされていない。
 接着に使用されたセロハンテープは接着剤の劣化により、固着力を失い、セロハンが剥がれている。接着剤は濃い黄褐色に変色し、固体で付着しているが支持体にも染みこみ、画面側からは微かに黄化し、やや半透明を帯びたテープ痕が確認される。
 紙を使用して処置された部分は破損部が重なった状態で固定されており、本誌がつれて歪みが生じている。あてがわれた紙には本作品関係者などの名が掲載されている。展示の都度、破損が生じ、処置を行った可能性がある。全体に大きな波打ちや変形や細かな皺、折れなどがある。所々に液体が垂れたシミ跡が見られる。褐色の斑状のシミが点在している。
 紙筒に保管された状態で巻き終わりとなる一枚目の支持体の色調は、内側に位置するものより褪せており、損傷が著しい。

【修復処置事項】

1.写真撮影
2.状態調査
3.旧接着剤除去
4.破損部接着
5.上辺吊り下げ部分補強・接着
6.紙筒・保管容器新調
7.報告書作成

【修復処置内容】

1. 修復前の作品の状態をデジタルカメラで撮影記録。
2. 修復前の作品の状態を調査し、記録表に記入。
3. 旧処置によるセロハンテープ・紙テープをピンセット等を使用して外し、付着している接着剤を医療メスで削ぎ取った。粘着質が残っている部分はTHF (テトラヒドロフラン)を用いて除去した。
4. 破損部の継ぎ目を合わせ、裏面側から帯状に喰い裂いた和紙をあてがい、生麩糊を使用して接着した。
5. 展示のため、作品上辺に筒を通す付属物を取り付けた。上記と同様に生麩糊を用い、裏打ちを施して強化した和紙を筒状にして接着した。
6. 中性紙管に本紙を巻、巻き子用台差し箱(アーカイバルボード)に収めた。

【修復後の所見】

 現在、支持体に生じている破れに対しては接着を行い、安定した状態となったが、作品の印象としては現状維持という方針で、支持体の変形や旧処置による支持体の歪みに対して処置を行わなかった。
 セロハンテープを使用した部分は接着剤の変色の影響が見られるため、除去を行った。紙があてがわれた部分は変色などの影響は見られないが、破損部が重ねられて固定されており、周囲に波打などの変形が生じていた。外して修正することも可能であるが、使用されている紙が本作品関係者の名を連ねている内容でもあり、資料性としての価値と当時の風合いを尊重することを兼ね、今回はそのまま残すこととした。
 修復材料には生麩糊を使用しており、接着した和紙などを外すこともできる。将来的に方針のへ変更が生じた際も対応が可能である。

写真は左から
写真1:修復前(表面)
写真2:修復前(裏面)
写真3:修復後(表面)
写真4:修復後(裏面)

日付

2012年4月14日〜2013年3月