慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

旧ノグチ・ルーム(萬來舎)の保存修復処置

 三田キャンパスで長らく「ノグチ・ルーム」と呼ばれてきた第二研究室談話室は、建築家谷口吉郎と彫刻家イサム・ノグチのコラボレーションによって創造された空間であり、1851年8月に竣工した。南館新築に伴う第二研究室解体という事態を受けて、庭へ広がる空間を伴った地上の談話室は、2004年南館3階ルーフ・テラスという全く異なった立地に、建築家隈研吾、景観設計家ミシェル・デヴィーニュの手を経て新しい形で移築された。2007年度に家具に加えて室内床面等を集中的に修復・保存処置を施した。その後、室内環境の改善につとめ、週1回の定期的な清掃および空調稼働を行ってきた。また、床面の定期メンテナンスとして1年に1度、秋に油性床用ワックス塗布を学校校舎の通常メンテナンスの範囲で行っている。更に、2011年度に家具にカバーを設置するとともに、紫外線カット・フィルムを全窓面に設置した。特に家具カバーと紫外線フィルムの設置により保存状態は飛躍的に改善された。 
 今年度は、アート・センターを通して専門家に依頼し、部屋全体の点検を行い、床の剥落箇所の補彩および、ワックス塗布と、丸椅子の破損箇所の修復を行った。専門家の状態調査の結果によれば、床は粘着テープの跡を取り除くためにかけたポリッシャーが、補彩を落としすぎてしまった可能性が高く、丸椅子の破損は、家具カバーの取り外し時や使用時に椅子が転倒した際に生じた可能性が高いとのことであった。アート・センターでは、この指摘を考慮し、文化財であるノグチ・ルームを大切に扱ってもらうためのガイドとして、ノグチ・ルームマニュアルを改訂した。さらに、使用者の利便性を高めるため、家具カバーに番号のついたワッペンを貼付するなどの作業を行った。また、野外にある彫刻「無」のキャプションが紫外線によって判読不能になっていたため、紫外線による退色に強い、エングレーヴィングによるキャプションを新調した。



保存修復作業記録

2017年2月27日 修復研究所21/担当者 宮﨑安章 
 

【作業内容】

 平成29(2017)年1月30日から2月1日に三田キャンパス第二研究室「新萬来舎/旧ノグチ・ルーム」の修復点検を行った。部屋使用によって床の保護ワックス剥落し、清掃時に旧ワックスと板の色もきれいになってしまい、周囲との明暗差が出来てしまっていた。剥落箇所の補彩を行い、床全面に保護ワックスを塗布した。
  家具類の点検は平成27(2015)年3月18日に修復を行った箇所を中心に行った。特に直射日光があたり劣化箇所が顕著であった《テーブル》《腰掛(小)》《座敷の敷物》は注意深く観察を行った。昨年修復を行ったテーブルは柔軟性を高めるためにエレミ樹脂を調合したマスチック樹脂ワニスを塗布した事も剥離等の防止に繋がっている。紫外線カットフィルムを窓ガラスに貼ったことによる有害紫外線の遮蔽効果は非常に大きく、目視での確認ではあるが、昨年の点検時と比べても大きな変化はなく、劣化の進行は抑えられている。また継続的に室内の空調や各家具にかけたカバーの効果も大きいと考える。但しテーブル天板に擦傷箇所があり、マスチック樹脂ワニスを塗布した。腰掛と奥の座敷に敷かれている敷物も、直射日光があたっている箇所も以前のような、表皮が剥がれる様な劣化は観察できなかった。腰掛(小)の背もたれの縄の劣化も、新調し補彩を施した縄も褪色など特に変化はない。 
 丸椅子の研100、研101、研102の三脚の座面の一部が破損した箇所がある。椅子の座側面に木部の変形があることから倒したことによって破損したと考える。破損箇所は膠水を塗布し、クランプ等で固定し接着を行った。欠損箇所はエポキシ樹脂パテを充填し、溶剤型アクリル絵具を使って補彩を行った。
 直射日光があたる《テーブル》《腰掛(小)》《座敷の敷物》表面の変化や劣化があるか、経過観察を続け、必要に応じて修復処置を行う。
 

写真は左から
写真1:ワックス塗布
写真2:丸椅子修復中
写真3:床の補彩

日付

2017年1月30日~2月1日