慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

堀進二《今村新先生》(中等部)の洗浄・保存処置

 中等部の校庭に設置されているこの胸像は堀進二(1890-1978)の作品で、中等部初代校長の今宮新の喜寿を記念して設置された。しかし、設置の経緯は必ずしも明らかではない。堀進二は太平洋画会研究所で新海竹太郎に師事し、戦後には戦災を受けた太平洋美術学校の復興に尽力し、校長となっている。中等部には太平洋画会に関わりのある者がおり、その縁で堀進二にこの胸像の制作が依頼されたのではないか、という推測がなされたが、現在のところ経緯ははっきりしない。
 本作品は設置されてから、洗浄・保存処置が一度もとられることなく、現在に至ると考えられ、経年による汚れ等が認められ、処置が必要なことから、アート・センターを通して専門家に依頼し、洗浄保存処置を施した。



保存修復作業記録

2013年5月 ブロンズスタジオ(保存修復室)・黒川弘毅/作業者:黒川弘毅、篠崎未来 中等部の教員生徒有志

作品

作者=堀進二
作品名=今宮新先生
制作年=1977年
材質・技法=ブロンズ

【処置前の状態】

 降水の影響を被る上向き面・上向き斜面は、さびが優勢に形成されている。垂直面は、降水の流路に条痕状にさびが形成されている。垂直面・下向き斜面の降水の影響を免れた部位は、当初の黒茶色をした着色を残している。発錆部分の淡青色と黒茶色とのコントラストが顕著となっている。
 表面には、淡青色と緑色の2種類のさびが島状の黒色部分とともにみられる。淡青色のさびは腐食で減衰した凹みを形成していている個所に分布し、色調の上で優勢となっている。緑色のさびは黒色部分と淡青色の部分の上を覆うように少量形成されている。
 多くの屋外ブロンズについて行われたこれまでの分析調査により、これらのさびはブロカンタイト(塩基性硫酸銅)であることが判明している。淡青色のさびは安定しておらず粒状であるのに対し、緑色のさびは安定した緻密な層を形成している。
 表面では、性質の異なる2種類のさびが対抗している。現在、淡青色の錆が優勢であるが、淡青色のさびに対して緑色のさびが増加しつつあるようにみえる。今後、緑色のさびの発現がさらに進行して、これが優勢化するかどうか注意して観察する必要がある。

【作業の基本方針】

・表面に保護剤を塗布して保存処置を施す。保護剤には蜜蝋を用いる。
・ワックスの加熱塗布により、経年を感じさせる古び感を活かして像の色調を補整する。

【作業内容】

1.洗浄作業
 陰イオン系洗剤を用いて洗浄した。
 使用材料 陰イオン系洗剤溶液
2.着色補整・保護剤塗布作業
  全体にワックスを塗布し、これを加熱しながら色調を調整した。
 使用材料  蜜蝋、リグロイン
3.光沢調整作業
 作品を目立たせるよう、全体的にワックス表面を研磨して光沢を調整した。

【作業結果】

・条痕は目立たなくなり、明度が低下して落ち着いた色調となった。
・保護剤の塗布により、作品には潤いと艶が生じた。
・ワックスの塗布により、表面は良好な撥水性を得た。
 

写真は左から
写真1:修復前
写真2:修復後
写真3:洗浄
写真4:ワックス塗布
写真5:光沢調整
写真6:作業参加者

Date

2013年2月23日