慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

G.Morton《THE NEW STEAM CARRIAGE 1828》W.Summers《THE “ENTERPRISE”STEAM OMNIBUS》の修復

 本作品は、上記《ペリー提督首里城より帰還の図(1853年)》等と同じく、長らくメディア・センターの所管下にありながらその存在を知られることが希であった一群の美術品・資料類のうちの1点であり、活用のためには保存修復処置が必要であった。埃汚れや変色、しみがあり、アート・センターを通じて専門家に依頼し、修復保存処置を施した。



保存修復作業記録

2017年3月25日 修復研究所21・渡邉郁夫/担当者 有村麻里

作品

作者=G.Morton(絵)Henry Pyall(製版)R.Powell(出版)
作品=THE NEW STEAM CARRIAGE 1828
制作年=不詳
材質・技法=印刷インク・洋紙(リトグラフ・手彩色)
寸法=512.0×636.0mm

作者=William Summers(絵)Charles Hunt(製版)R.Powell(出版)
作品=THE “ENTERPRISE”STEAM OMNIBUS
制作年=不詳
材質・技法=印刷インク・洋紙(リトグラフ・手彩色)
寸法=507.0×636.0mm

作品概要

 《THE  NEW  STEAM  CARRIAGE 1828》の画面右上には「Republished  by  R.Powell.6.Grove  Road.  Brixton,London.」 画面下には「THE NEW STEAM CARRIAGE 1828」とあり、続いてこの蒸気馬車の仕様が記される。記載によれば、馬車の全長は、15~20フィート、重さは2トン、時速8~10マイルで、定員は、室内6名、外に12名とある。車体には、「G.Gurney  INVENTOR  AND  PATENTEE」とあることから、描かれているのは、ゴールズワージー・ガーニーが開発した蒸気馬車であることが分かる。
 《THE “ENTERPRISE”STEAM OMNIBUS》の画面右上には、「Published  by  R.Powell.6.Grove  Road.  Brixton,London.」画面下部には、「THE “ENTERPRISE”  STEAM  OMNIBUS, BUILT BY Mr.Walter Hancock of Stratford, For THE / LONDON AN D   PA D D I N G T O N   S T E A M   C A R R I A G E   C O M P Y.   / Commenced Running April, 22nd,,1833. 」「Published June,1833.by  ACKERMANN  &  Co,,96,Strand」と記す。描かれているのは、ウォルター・ハンコックが開発した蒸気自動車エンタープライズ号である。
  両図ともリトグラフであるが、手彩色が全体に施されている。ともに出版元は、R.Powellで、再版されたものと分かる。同一仕様の額に納められていた。


【作業前の状態・表面の状態】

・絵具層:固着は良好
・支持体:縦方向に連続した波打ち変形が生じている。画面・裏面共に斑状の褐色のしみが広範囲で見られる。横方向中央部を除いて黄化が進行している。裏蓋に使用された木材からの影響が考えられる。全体に汚れの付着、下辺中央に小さな破れがある。
・額縁:汚れの付着が著しい。改善すべき部分はあるが、使用は可能。
※本作品は実習の教材として使用することを目的とし、今回は汚れの除去と保存のためのマット・保存箱を新調することのみ行うこととした。


【作業内容】

1.写真撮影:修復前の作品の状態をデジタルカメラで撮影記録した。
2.調査:修復前の作品の状態を調査書に記録した。
3.修復方針の検討:作品の調査を行った後、必要な処置・使用する材料を検討した。
4.乾式洗浄:画面・裏面に付着した汚れを刷毛・練り消しゴムを用いて除去した。
5.マット装:BOOK型マットを新調し、作品が取り出しやすいように下方のみシースルー・マウンティングストリップを使用して作品を台紙に固定した。
6.写真撮影:修復後の作品の状態をデジタルカメラで撮影記録した。
7.報告書作成:修復中の写真等を含めて報告書を作成した。


【修復後の所見】 

今回は実習の教材として利用することを目的として、損傷はそのままの状態で残すこととした。汚れの付着が顕著であるため、汚れ除去のみ行った。また、今後安全に保存していくため、BOOK型マットと中性紙の保存箱を新調して作品を収めた。将来、修復を行う場合は、全体に見られる褐色の斑状のしみに対するしみぬき、支持体の黄化に対する湿式洗浄、その他変形修正、破損部接着が必要である。
 

写真は左から
写真1:The New Steam Carriage(修復前)
写真2:The Enterprise Steam Omnibus(修復前)
写真3:The Enterprise Steam Omnibus(修復中)

Date

2016年7月~2017年3月