慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

旧ノグチ・ルーム(萬來舎)の保存修復処置

 2007年度に家具に加えて室内床面等を集中的に修復、保存処置を施し、その後は室内環境の改善につとめ、週に一回の定期的な清掃および空調稼働を行ってきた。また床面のメンテナンスとしては年に一度、3月頃に油性床用ワックスの塗布をメンテナンスの範囲で行なっている。さらに 2011年度には家具カバーを設置、紫外線フィルムを全窓面に設置したことで、保存状態が飛躍的に改善された。
 本年度の保存修復は以下の通りである。通常非公開となっている旧ノグチ・ルームであるが昨今はさまざまな催事や授 業時にも利用されるなど、以前よりも使用頻度が高いゆえに、定期的な状態調査および保存処置は必須である。



保存修復処置記録
2020 年 3月 31日 修復研究所二十一 所長 渡邉郁夫
*作業日 2020 年 3 月 30、31 日
*担当者 宮﨑安章

●作業内容
・令和 2(2020)年 3 月 30 日~ 31 日に三田キャンパス第二研究室「新萬来舎 / ノグチ・ルーム」の修復点検を行った。
・床全面と各家具、衝立のテープ痕の補彩と各箇所への保護ワックス塗布とカーテン裾の解れ補修を行った。
・家具類は平成 31(2019)年 2 月 4 日に点検箇所を中心に行い、また平成 30(2018)年 10 月 11 日~ 12 日に床の粘着テープ等によって剥離したワックス補修箇所は、その後の使用状況と管理よって大きな損傷箇所は見あたら無かった。
・腰掛と奥の座敷に敷かれている敷物も、直射日光があたっている箇所も以前のような、表皮が剥がれる様な劣化は観察できなかった。
・腰掛(小)の背もたれの縄の劣化も、新調し補彩を施した縄も褪色など特に変化はない。腰掛(大)の背もたれの縄の一部に摩耗した箇所がある。
・北側カーテンと南側の部屋を仕切るカーテンの裾に解れた箇所があった。

以下、各対象ごとに図版と共に記す。

家具類
 直射日光があたり劣化箇所が顕著であった《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》《座敷の敷物》は注意深く観察を行った。
紫外線カットフィルムを窓ガラスに貼ったことによる有害紫外線の遮蔽効果は非常に大きく、目視での確認ではあるが、
前回の点検時と比べても大きな変化はなく、劣化の進行は抑えられている。また継続的に室内の空調や各家具にかけた紫外線カットカバーの効果も大きいと考える。
・テーブルは清掃後、蜜蝋を主成分とした家具用ワックスを塗布した。
・腰掛(大)(小)は敷物と背もたれを刷毛で清掃した後にテーブルと同じワックスを塗布した。
・籐の敷物も外して掃除機を使って清掃を行った。
・腰掛(大)の敷物の一部に籐の欠損箇所があり、新しい籐を取り付け、周囲に合わせて色調を合わせ補修した。
・腰掛(大)(小)の脚底に取り付けた保護用のフェルトが外れており、これも新しいものに交換が必要である。
・窓ガラスに紫外線カットフィルムを貼った事による紫外線の遮蔽効果は大きく、劣化の進行を大幅に遅らせている。空調の継続的な使用と家具にカバーをかけて保護していることも非常に効果がある。カバーを外した状態で時間の経過と共に表面の温度は上昇するため、直射日光(赤外線)の遮断効果のある方法の検討をしたい。
使用ワックス:《Wood Food”天然艶出し蜜蝋ワックス》


・床の状態は、平成 30(2018)年 10 月 11 日~ 12 日に粘着テープ等によって剥離したワックスの補修箇所を確認した。補修から1年5ヶ月の時間経過から状態は良好である。
・床部はポリプロピレン紙のモップで表面を清掃した後に、補彩をし、水性樹脂ワックスを3度塗布した。ワックスは、床用樹脂ワックス NEW V-COAT(ニューブイコート)を使った。
塗布ワックス:NEW V-COAT(ニュー V・コート) 第一化学
工業所(製造) タイカ商事(販売)
・入口付近のため入場者の往来が多く、保護ワックスが他と比べ剥がれ易い可能性があるため経過観察が必要である。

座敷/空調吹き出し口
・東側座敷の縁と空調吹き出し口の格子を固定している、コーススレッドの木ねじの先端が 2 ~ 5mm 突き出した箇所が 6 箇所あった。
・床板を取り外して木ねじの取り外しを試みたが、壁にある箱状の出棚が床板の上に設置されており、容易に取り外しは出来なかった。
・木ねじ先端の切断も試みたが持ち込んだ道具で切断が出来ず、樹脂パイプで養生し、後日切り落とすこととした。木ねじを取り外すために床板を外そうと試みたが、壁側にある棚が床板の上に設置されており取り外すことが容易でないため木ねじの先端を切り落とすこととした。
・《座敷》北側の縁と吹き出し口の木部が欠損している。縁と吹き出し口の欠損にエポキシ樹脂パテを使い充填整形を行い、溶剤型アクリル絵具で補彩を施した。

カーテン
・北側と腰掛、机の上方のカーテン裾が解れている。
・シート状のホットメルト型接着剤を使った解れた箇所を接着し固定した。
・糸で纏った箇所も数カ所ある。

照明
・テーブル上部にある円形の照明に張られている和紙の一部
に突き傷による破損箇所があり、埃等を清掃した後に生麩
糊で接着を行った。

●保存上の留意事項
直射日光があたる《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》《座敷の敷物》表面の変化や劣化があるか経過観察を続け、必要に応じて修復処置を行う。また旧ノグチ・ルームの公開等を行う場合《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》は長時間日光に当たり表面温度が上昇し、劣化の大きな要因となるため、遮光するための衝立などを設置すると保存環境が改善されると考える。

写真は左から
図 1 脚底に取り付けられた保護用フェルト(要交換)
図 2 修復中《床》
図 3 修復前《座敷》縁と吹き出し口の枠を固定している木ねじの先端が飛び出している。
図 4 修復中《座敷》取り外すことが容易でないため木ねじの
先端を切り落とすことにした。
図 5 修復中《座敷》床下の構造を確認するために可能な箇所
で床板を取り外した。
図 6 修復中《座敷》木ねじの先端を切断する機材が無かったため、先端をカバーする樹脂製のパイプを取り付けた。
後日、切断する予定。
図 7 修復中《座敷》北側
図 8 修復前《カーテン》

Date

2020年3月31日