慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

廣瀬功《庭園》《桃とテーブル》修復



《庭園》
●作品
作者=廣瀬功
作品=庭園
制作年= 1949(昭和 24)年
材質・技法=油彩、カンヴァス
寸法= 725 × 1,160 × 30mm
額寸法:920 × 1,350 × 80mm

修復記録
2020 年 3 月 25 日
修復研究所21 所長 渡邉郁夫
*担当者:宮﨑安章
*作業日:2019 年 7 月 31 日から 2021 年 3 月 30 日

●処置前の状態
[絵具層]
・乾燥亀裂が全面にある。
・天地方向に亀裂と凸状の変形が観られる。
・作品の周囲と変形箇所の一部に剥落と浮き上がりがある。
・画面全体に汚れが付着し、カビによるシミも多数ある。
[支持体]
・キャンバス釘で止められているが、画用釘が錆による外れと木枠の破損によって画布の上辺と左辺に折れが生じ、波打つように変形がある。
・裏面は砂埃で汚れている。
[木枠]
・画用木枠、員数 8 本(中桟 2 本)、杉材、楔穴楔はない。
・中央で 2 分割できる仕様になっており、上下辺中央に接ぎ板で止められている。
・鉄製の釘で止められている。

●修復処置内容
・修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
・修復前の作品の状態を調査した。
・接着剤は膠水(1:10)を使用。緩衝剤のシリコンシートを敷き、電気ゴテで加温、加圧して接着を行った。
・裏面の清掃を行い、エタノールで殺菌処置を行った。
・支持体周囲(耳部)に 亜麻布を接着して補強を行った。接着剤は BEVA シート(ホットメルト型アクリル樹脂接着剤)を使用した。
・四隅が開閉し伸縮する可動枠に耳補強した作品を張り込んだ後に、枠を伸ばしながら支持体の変形を修正した。
・希アンモニア水を脱脂綿で作った綿棒に染み込ませて表面の汚れを取り除いた。
・下層から画布に描かれた油彩画(婦人像)が 2 枚出現したため、新調した木枠に作品を張り込んだ。
・炭酸カルシウムと合成樹脂接着剤を練り合わせて、充填剤を絵具層の欠損箇所に詰めた後、周囲の絵肌に合わせて整形した。
・防カビ剤( T. B. Z/チアベンダゾール)を塗布した。
・溶剤型アクリル絵具を使用して作業を行った。
・ダンマル樹脂ワニスに、光沢調整のためにワックスを混ぜて、スプレーで塗布した。

●修復後の所見
・支持体の折れや変形を修正し、新調した木枠に張り込み、作品本来の平滑な画面になり、鑑賞の妨げにならないようになった。
・画面の汚れを洗浄し、本来の色調が戻った。
・絵具層の浮き上がった箇所を接着し、安全に移動や保管をできるようになった。
・額縁は新調し、UV カットアクリル板とポリカーボネイト板の裏蓋を取り付けた。

《桃とテーブル》
●作品
作者=廣瀬功
作品=桃とテーブル
制作年= 1951(昭和 26)年
材質・技法=油彩、カンヴァス
寸法= 681 × 563 × 37mm 額寸法:875 × 775 × 75mm

修復記録
2020 年 3 月 25 日
修復研究所21 所長 渡邉郁夫
*担当者:宮﨑安章
*作業日:2019 年 7 月 31 日から 2021 年 3 月 30 日

●処置前の状態
[ワニス層]なし。
[絵具層]
・乾燥亀裂が全面にある。
・天地方向に亀裂と凸状の変形が観られる。
・作品の周囲と変形箇所の一部に剥落と浮き上がりがある。
・画面全体に汚れが付着し、カビによる斑点状のシミが多数ある。
[支持体]
・キャンバス釘で止められている。
・四隅に張りムラによる凸凹がある。特に下辺が目立つ。
・左辺中央とその下部に破損(穴)がある。凹んでいることから画面側からの突傷による破損と考える。
・裏面は砂埃で汚れている。
[木枠]
・画用木枠、員数 4 本、杉材、楔穴楔はない。

●修復処置内容
・修復前、中、後をデジタルカメラで撮影した。
・修復前の作品の状態を調査した。
・接着剤は膠水(1:10)を使用。緩衝剤のシリコンシートを敷き、電気ゴテで加温、加圧して接着を行った。
・裏面の清掃を行い、エタノールで殺菌処置を行った。
・支持体周囲(耳部)に 亜麻布を接着して補強を行った。接着剤は BEVA シート(ホットメルト型アクリル樹脂接着剤)を使用した。
・裏面から加湿、加温、加圧して支持体の変形を修正した。
・希アンモニア水を脱脂綿で作った綿棒に染み込ませて表面の汚れを取り除いた。
・新調した楔付きの木枠に作品を張り込んだ。
・炭酸カルシウムと合成樹脂接着剤を練り合わせて、充填剤を絵具層の欠損箇所に詰めた後、周囲の絵肌に合わせて整形した。
・防カビ剤( T. B. Z /チアベンダゾール)を塗布した。
・溶剤型アクリル絵具を使用して作業を行った。
・ダンマル樹脂ワニスに、光沢調整のためにワックスを混ぜて、スプレーで塗布した。
・塗装部の欠損剥落箇所を補修した。
・作品はステンレス製のサルで固定し、裏蓋を取り付けた。

●修復後の所見
・画面の汚れを洗浄し、本来の色調が戻った。
・絵具層の浮き上がった箇所を接着し、安全に移動や保管をできるようになった。
・額縁は新調し、UV カットアクリル板とポリカーボネイト板の裏蓋を取り付けた。

●今後の取り扱い上の注意(《庭園》《桃とテーブル》二作品とも)
[陳列の場合]
・直射日光の当たる場所は避け、暖房器具の近くや直接エアコン等の冷風温風の出口、冷風温風の当たる場所は避ける。
・微振動のある壁(エアコンの近く等)には掛けない。
・変形やシミの原因となるため湿度の高い場所は避ける。
・画面に塵埃が付着した場合は、羽根箒等で軽く払う。
・吊り紐はワイヤー、合成繊維のロープ等が適当である。
・吊り金具は、しっかりした金属製を用いる。最近接着剤を使用したフックが出ているが作品をかけるのには不適当である。
・ガラス入りの額縁の場合、ガラス内側が曇ったり、黴が発生する場合がある。その場合は額縁から作品を外し、アルコールを含ませた脱脂綿やガーゼ等でガラス面を拭く。
[保存、運送の場合]
・湿度の高い場所での保存は避ける。地下室、倉庫等で空調のない場所も避ける。
・年に一回程度、乾燥した天気の良い日に、作品を額縁から外し内側にこもった湿気や埃を除去後、改めて額装するとよい。

写真は左から
廣瀬功《庭園》
図 1 修復前 表
図 2 修復前 裏
図 3 修復中 支持体変形修正 表
図 4 修復後 額縁つき 表
図 5 修復後 額縁つき 裏

廣瀬功《桃とテーブル》
図 1 修復前 表
図 2 修復中 裏面洗浄
図 3 修復後 額縁つき 表

Date

2020年3月25日