旧ノグチ・ルーム(萬來舎)の保存修復処置
三田キャンパスで長らく「ノグチ・ルーム」と呼ばれてきた第二研究室談話室は、建築家谷口吉郎と彫刻家イサム・ノグチのコラボレーションによって創造された空間であり、1951 年 8 月に竣工した。南館新築に伴う第二研究室解体という事態を受けて、庭へ広がる空間を伴った地上の談話室は、南館 3 階ルーフ・テラスという全く異なった立地に、建築家隈研吾、景観設計家ミシェル・デヴィーニュの手を経て新しい形で 2005 年に移築された。この移築後の「旧ノグチ・ルーム」は、2007 年度に家具に加えて室内床面等を集中的に修復・保存処置を施した(年報 15 号、65-69 頁参照)。その後室内環境の改善につとめ、週 1 回の定期的な清掃および空調稼働を行ってきた。2011 年度には家具に専用カバーを設置するとともに、紫外線カットフィルムを全窓面に設置したことで、保存状態が飛躍的に改善された。(年報 19 号、44 頁参照)また、年に一度、専門家に依頼し、状態の点検、床面と家具類の清掃および保護ワックスの塗布を実施し、その他必要に応じてケアを行っている。
通常非公開となっている旧ノグチ・ルームであるが、昨今はさまざまな催事や授業時にも利用されるなど、以前よりも使用頻度が高いゆえに、定期的な状態調査および保存処置は必須である。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で例年よりも使用機会が少なかったが、以下のとおり点検と補修を行った。
状態調査報告書
2021 年 3 月 31 日 修復研究所 21 所長 渡邉郁夫
*作業日 2021 年 3 月 10、11 日
*担当者 宮﨑安章
●作業内容
床全面と各家具、衝立のテープ痕の補彩と、各箇所への保護ワックス塗布とカーテン裾の解れ補修を行った。家具類は令和 2(2020)年 3 月 30 日の点検箇所を中心に行い、また平成 30(2018)年 10 月 11 日~ 12 日に床の粘着テープ等によって剥離したワックス補修箇所は、その後の使用状況と管理によって大きな損傷箇所は見当たらなかった。
家具類
直射日光があたり劣化箇所が顕著であった《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》《座敷の敷物》は注意深く観察を行った。紫外線カットフィルムを窓ガラスに貼ったことによる有害紫外線の遮蔽効果は非常に大きく、目視での確認ではあるが、前回の点検時と比べても大きな変化はなく、劣化の進行は抑えられている。また継続的に室内の空調や各家具にかけた紫外線カットカバーの効果も大きいと考える。
・テーブルは清掃後、蜜蝋を主成分とした家具用ワックスを塗布した。
・腰掛(大)(小)は敷物と背もたれを刷毛で清掃した後にテーブルと同じワックスを塗布した。
・籐の敷物も外して掃除機を使って清掃を行った。
・腰掛と奥の座敷に敷かれている敷物も、直射日光があたっている箇所も、以前のような、表皮が剥がれる様な劣化は観察できなかった。
・腰掛(小)の背もたれの縄の劣化も、新調し補彩を施した縄も褪色など特に変化はない。
・腰掛(大)の背もたれの縄の一部に摩耗した箇所がある。
・腰掛(大)、腰掛(小)、衝立の清掃とワックス塗布を行った。籐の敷物をずらして床面も掃除機でゴミや埃を取り除いた。保護用ワックスを塗布した。
・腰掛(大)座面の合板が一部浮き上がっており、膠水(1:4)を使用して接着を行った。緩衝材のポリエステル紙と吸い取り紙を敷いて重しを置き接着作業を行った。
・腰掛(大)(小)の脚底に取り付けた保護用のフェルトが外れており、これも新しいものに交換が必要である。
・空調の継続的な使用と家具にカバーをかけて保護していることも非常に効果がある。カバーを外した状態で時間の経過と共に表面の温度は上昇するため、直射日光(赤外線)の遮断効果のある方法の検討をしたい。
・カバーの滑り止めに使う重しを重いものに新調し、設置後にカバーがずれることがなくなり作業性も向上した。
塗布ワックス:《“Wood Food”天然艶出し蜜蝋ワックス》
床
・床の状態は、平成 30(2018)年 10 月 11 日~ 12 日に粘着テープ等によって剥離したワックスの補修箇所を確認した。補修から 2 年 5 ヶ月の時間経過から状態は良好であるが、他の場所にワックスの剥落がある。この箇所は新たにワックスを塗布することによって改善された。
・床部はポリプロピレン紙のモップで表面を清掃した後に、市販のフロアー用水性ワックスを 3 回塗布した。
塗布ワックス:NEW V-COAT(ニュー V・コート) 第一化学工業所(製造) タイカ商事(販売)
・入口付近は入場者の往来が多く、保護ワックスが他と比べ剥がれ易い可能性があるため経過観察が必要。
カーテン
・入口を入り左側の部屋を仕切るカーテンの裾に解れた箇所があった。
●保存上の留意事項
直射日光があたる《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》《座敷の敷物》表面の変化や劣化があるかを経過観察を続け、必要に応じて修復処置を行う。また旧ノグチ・ルームの公開等を行う場合《テーブル》《腰掛(大)》《腰掛(小)》は長時間日光に当たり表面温度が上昇し、劣化の大きな要因となるため、遮光するための衝立などを設置すると保存環境が改善されると考える。
写真は左から
図 1 床へのワックス塗布
図 2 家具類の清掃とワックス塗布
図 3 《腰掛(大)》座面の合板浮き上がりを、膠水を使用して接着
Date
2021年3月31日