慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

旧ノグチ・ルーム(萬來舎)の保存修復処置

 三田キャンパスで長らく「ノグチ・ルーム」と呼ばれてきた第二研究室談話室は、建築家谷口吉郎と彫刻家イサム・ノグチのコラボレーションによって創造された空間であり、1951年8月に竣工した。南館新築に伴う第二研究室解体という事態を受けて、庭へ広がる空間を伴った地上の談話室は、2004年南館3階ルーフ・テラスという全く異なった立地に、建築家隈研吾、景観設計家ミシェル・デヴィーニュの手を経て新しい形で移築された。2007年度に家具に加えて室内床面等を集中的に修復・保存処置を施した。その後、室内環境の改善につとめ、週1回の定期的な清掃および空調稼働を行ってきた。また、床面の定期メンテナンスとして1年に1度、秋に油性床用ワックス塗布を学校校舎の通常メンテナンスの範囲で行っている。更に、2011年度に家具に専用カバーを設置するとともに、紫外線カット・フィルムを全窓面に設置した。特に家具カバーと紫外線フィルムの設置により保存状態は飛躍的に改善された。 
 昨年度は、テーブルの傷、腰掛けの背もたれの一部弛みなどが見られたため、その修復処置を施すとともに、衝立裏部分のケアを行った。今年度は、昨年度の修復箇所の確認を中心に、部屋全体の点検を行い、腰掛けと丸椅子に一部新しい損傷が確認されたので修復処置を施した。



保存修復作業記録

2016年4月22日 修復研究所21・宮﨑安章

 調査結果 2016年2月16日に三田キャンパス第二研究室「新萬来舎/ノグチ・ルーム」の状態調査を行った。2015年3月18日に修復を行った箇所を中心に部屋全体の点検を行った。特に直射日光があたり劣化箇所が顕著であった《テーブル》《腰掛(小)》《座敷の敷物》の他に《丸椅子》《茶托》の観察も行った。 紫外線カットフィルムを窓ガラスに貼ったことによる有害紫外線の遮蔽効果はあり、劣化の進行は抑えられている。しかし、直射日光があたることによる、表面温度の上昇や遮蔽しきれない紫外線による、ワニス層の劣化は多少あったため、エレミ樹脂を調合したマスチック樹脂ワニスを塗布した。 また継続的に室内の空調や各家具にかけたカバーの効果も大きいと考え、今後も実施することを推奨する。《腰掛(小)》は、背もたれの正面向かって一番左側の支柱が接しているイ草縄が破損して外れている箇所がある。使用時に背もたれに寄りかかり、支柱に挟まっている箇所に負荷がかかり破損したと考える。 《丸椅子》は、座の縁(周囲)や脚底に、以前に無かった欠損がある。座の欠損はカバー布を取り外す際に起こった可能性があり、脚底の欠損は使用した際に出来たと考える。《茶托》は大きな損傷はなかった。 奥の座敷に敷かれている敷物も、直射日光があたっている箇所も以前のような、表皮が剥がれる箇所は無かった。床も清掃を行い、定期的にワックスを塗布しているが、入口付近に粘着テープを除去した際に出来たワックスの剥落した痕跡があり、暖炉付近にも擦って出来たワックスの剥落した痕跡が筋状に多数ある。 衝立の足下などにも表面が擦れて剥落した箇所が多数ある。 背もたれの破損したイ草縄は、真鍮製の小さい釘で止めて今回は応急処置を行った。 これからの修復について、《丸椅子》の破損箇所は接着等の処置を行い、脚底に保護のために貼ったフェルトが剥がれているので損傷を処置した後に新しいものに交換する。 今回の損傷は《テーブル》は経年で起こったものであるが、《腰掛(小)》《丸椅子》《床》などは、人為的な損傷であり、注意をはらって行動すれば防げた可能性のある損傷である。今後、使用に関しては細心の注意を払わなければならない。 直射日光があたる《テーブル》《腰掛(小)》《座敷の敷物》表面の変化や劣化があるか経過観察を続け、必要に応じて修復処置を行う。 ノグチ・ルームを使用し続ける場合は、保護カバー布の取り外しや座り方、移動時の引きずりなど、各家具の取り扱について憂慮し使用することを要望する。床などに粘着テープ等は貼らないことを希望するが、使用しなければならない場合は、粘着力の弱いもの等、適切な材料を選択して使用して欲しい。 紫外線カットフィルムは貼って一定の効果は得られているが、常に直射日光があたっている状態は保存上良いことではないため、少しでも遮光できるものを設置することを提案する。

写真は左から
写真1:腰掛のイ草縄の修理
写真2:丸椅子の剥落

日付

2016年2月16日


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