慶應義塾大学アート・センター Keio University Art Center

中嶋興/VICを基軸としたビデオアート関連資料のデジタル化・レコード化

本事業は、戦後から現代にいたる日本のメディア芸術の諸活動を、「インターメディア」という枠組みにおいてとらえ直し、芸術史・映像史という縦軸と、同時代の様々な芸術諸活動という横軸との交差点に位置するビデオアート関連資料群、特に中嶋興とVICを通し、日本のメディア芸術史をよりよく精査可能にするための基盤構築を目指すものである。

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● 令和2年度メディア芸術アーカイブ推進支援事業「中嶋興/VICを基軸としたビデオアート関連資料のデジタル化・レコード化」について

本事業は、戦後から現代にいたる日本のメディア芸術の諸活動を、「インターメディア」という枠組みにおいてとらえ直し、芸術史・映像史という縦軸と、同時代の様々な芸術諸活動という横軸との交差点に位置するビデオアート関連資料群、特に中嶋興とVICを通し、日本のメディア芸術史をよりよく精査可能にするための基盤構築を目指すものである。1970年以降の芸術作品は、およそ古典的な絵画や彫刻などの形体とは異なる、再現困難な一過性の形体(パフォーマンス/インスタレーション等)において実現される類の作品が多く、そのドキュメントや周辺資料によってしか作品へアプローチできないという条件がある。また、この時期は新旧のテクノロジーを連結させ、諸ジャンルの枠組みを横断させたタイプの作品が多い。それらのドキュメントの中心として流通していたのは写真による静止画だが、この時期にはビデオによる動画記録も多く残されており、時間性を孕んだ一過性の形体を有する作品の記録として、その重要性は計り知れない。こうした動画記録はビデオアートに与するものが多くある。この時期に培われたビデオアートでは、実験映画史と連続した問題を孕む作品群、複数の芸術ジャンルを連結させる「インターメディア」な機構、一過性の形体を有する作品(出来事)の記録、新たなコミュニケーション技術の構築の実験等が行われていた。つまりビデオアートという枠組みにおいて、メディア芸術の重要な諸事象と諸問題が展開されているのである。また、一過性の形体を有する芸術作品の代表的な一例である「もの派」の国際的な研究動向の進展が示しているように、1960年代後半以降の日本の芸術活動に関する世界的な関心の増大に対し、日本におけるビデオアートの調査・研究によって多くの応答が可能である。ビデオアート関連資料の中で特にビデオテープは一過性の形体を有する作品(出来事)の貴重な記録であり、それ自体がメディア芸術の根本問題を表現するものであるにもかかわらず、ビデオテープというメディアの特性上、保存状態が悪く、劣化し、再生困難な状況にあるものが多い。中嶋興とVICのビデオテープ資料も例外ではなく、カビの発生、バインダー化、再生機器の不足など、ビデオテープの内容を詳らかにする以前で立ち止まらざるを得ない状況下にある。ビデオテープに適切な処置を施すとともに、デジタル・データ化を行い、レコード化することが喫緊の課題であり、これらを行った。本事業は、1970年以降の日本におけるビデオアートの中心的な担い手である中嶋興とVICのビデオアート関連資料群のデジタル化とレコード化、インベントリー作成を行うことを通して、ビデオ記録によって一過性の形体を有する作品(出来事)を掬い上げること、ビデオアートからメディア芸術史を構築することを目的とする。


● 制作現場とアーカイヴについて

 当初、本事業内で予定していたのは、実際にある場所に一堂に会して行う「ビデオ・アーカイヴ」に関する映像作家達へのインタヴュー/ディスカッションであった。しかし、新型コロナウィルス感染拡大対策として、実際に集うことを止め、Zoomでのインタヴュー/ディスカッションへと変更し、この一連の問題を考えるための契機とした。具体的には、中嶋興(外苑前アトリエ)、手塚一郎(吉祥寺VIC)、中川陽介(取手アトリエ)、飯田豊(書斎)、久保仁志(慶應義塾大学アート・センター・アーカイヴ)という5つの部屋をZoomでつなぎインタヴュー/ディスカッション「制作現場とアーカイヴ」(2020年12月24日)を行った。なぜなら、第一にZoomを用いることで、各制作現場での営みをそれぞれの中心的エージェントとともに記録することができるから。第二にビデオによる記録をすることができるから。第三に、通常のシンポジウムならば登壇者が同じ場所に集合するが、Zoomを用いることで、それぞれの異なった制作現場を同時に交通(communication)させることができるからである。ビデオ記録とビデオ・アーカイヴについての議論自体をビデオ記録しアーカイヴ化しようと試みたのである。このインタヴュー/ディスカッションは以下の3つのブロックで構成された。

 

I. 制作現場とアーカイヴ

 中嶋興(外苑前アトリエ)、手塚一郎(吉祥寺VIC)、中川陽介(取手アトリエ)、飯田豊(書斎)、久保仁志(慶應アート・センター・アーカイヴ)の各場所をZoomでつなぎ、各制作現場での営みをそれぞれの中心的エージェントとともに記録した。

II. 「ソフト・ミュージアム」とビデオ・アーカイヴ

 1974年、VICの手塚は、中谷芙二子と連名で「ソフト・ミュージアム(SoftMuseum)」という企画を構想している。「美術と社会との充全な関係」をうちたてることを主眼とし、美術館・街中・SoftMuseumCenterという3つの場所を連動させるシステムである。そこで行われる予定だったのは、ビデオによる様々な出来事の情報化と、発信者と受信者が交代するような双方向のコミュニケーションであった。特筆すべきは、作品だけを対象とするのではなく、「作家の生いたち、作品の創造のプロセス etc. totalな情報」までも対象化しようとしていた点である。この企画は残念ながら実現しなかったが、現在のビデオを取り巻く諸状況をも射程に捉えていたこの企画の可能性の中心を探った。

III. ビデオ・アーカイヴとCATVと現在の動画配信サイト

 1970年代以降、ビデオと深く関わった中嶋も手塚も、ビデオ・アーカイヴとCATVをそれぞれ独自に行っていた。現在、YouTubeやVimeoなどの動画配信サイトは、デジタル・データによるビデオ映像のある種のデータベースとなり、ビデオを介したコミュニケーションを可能にする場として機能している。さらには、基本的なシステムさえ所有していれば、あらゆる個人が準放送局を運営することができるようになった現在において、ビデオはどのようなシステムとして機能しているのだろうか。マスメディアと異なるスタイルで公的領域と私的領域の連結を模索したCATVの試みは現在のビデオ動画配信サイトを中心とするビデオのネットワークとどのような関係を結んでいるのだろうか。「ソフト・ミュージアム」が構想していたもののうち、可能になったもの、実現されていないものは何だろうか。ビデオを中心とした記録とコミュニケーション・システム、そしてそれらのアーカイヴの問題について考えた。